今回は藤岡さんから約束通り、メールを頂いた皆様の「質問へのお答え」のお手紙です。感動の「長篇」ですから、じっくりご高覧下さいね。


  みなさん、お元気ですか?

僕は、楽しい楽しい日本フィル夏休みコンサートが大充実で無事終了。(僕は前半担当なので。日フィルの方は、高関健さんの指揮で、8月の5日まで続きます。ぜひお出かけくださいね。)

お約束通りみなさんの質問にお答えするお返事を書きます(メールをいただいた順序とは無関係で順不同です)。

まずは、メール第一号、北海道の菅原桂子さんへ。
札幌のコンサートに来て下さって(それも、会社まで休んで・・)本当にどうもありがとう!
「藤岡さんは指揮をしているとき、何を思い、考えているのですか?すごく知りたいです。何を感じながらタクトを振っているのか?」という質問ですが、「時と場合によります・・」。
但し指揮している時のほとんどは、指揮している場所の数小節先のことが、つねに頭の中にあります。あとは、演奏がうまくいってる時は、音楽をそのまま感じながら表現しようとしているだろうし、うまくいっていない時は、「エッ、こんなはずじゃ」・・・とか思っています。以上、又お会いできるのを楽しみにしています!!

次は、たびたびメールを下さる(本当にありがとうございます)雪村澪さんの質問。

  現代音楽の不協和音に満ちた(演奏者の具合が悪くなるような)曲
  を選択されて演奏されるとき、藤岡さんはその曲にどのような感情
  を持ち演奏されるのでしょうか?義務とかではなく、一人の演奏者
  としてどう思われているのか。不躾かとは思いますが、よろしけれ
  ばお教え下さいませ。


答えは「その曲を好きになって演奏します。」
キレイ事に聞こえるでしょうが、本当です。必死でその曲を好きになります。それが出来ない曲は指揮しません。(現代音楽の中にも素晴らしい作品は沢山ありますよ・・・)。あとは僕の“「現代音楽」について” を参考にして下さい。

次は、加藤さん。

 私は1年間イギリスにいましたが、マンチェスターを訪れる機会は
 ありませんでした。
 イギリスでは今ごろsnowdropsが咲いているでしょうか、
 それとももうcrocusでしょうか…。
 藤岡さんの目からご覧になったマンチェスターの街、生活、
 大好きなイギリスのことを、ホームページでも是非お話して下さい。


加藤さんもイギリスに住んでいらしたそうですね。
マンチェスターの生活は、とにかく時間に余裕があります。どこへ行くのも、車で20分以内。天候は人が言う程は悪くないし、ただ夏はほとんど23度ぐらいなので、東京に帰って来ちゃいます。僕は暑い夏が大好きなので。とにかく、マンチェスターにいる時の方が、東京にいる時より10倍は勉強がはかどります。又、マンチェスターの様子については、報告しますね・・・。


次は、ぴょーとるさんの専門的な質問。
 演奏家は言うまでもなく生身の人間です。したがって演奏する際、様々
 な制約が必然的に生じると思います。例えば、そんなに速く指が動かな
 いとか、息つぎができないとか、休みの小節が無くて譜めくりができな
 い...等々。それで作曲家は常にその制約に悩まされているような気がし
 ます。ベートーヴェンなども当時の楽器の機能にかなりの制約を感じな
 がら作曲をしていたのではないでしょうか。当時の演奏上の制約が原因
 であろうと思われる「ちょっと不自然なパート」があると思いますが、
 いかがでしょうか? 後世のことを考えて、多少の無理をしてでも意思
 通りのパートをベートーヴェンが書いていてくれたら、我々はもっと自
 然な声部進行を享受することができたと思うのです。しかし、実際に演
 奏不可能な事を書いてしまうと演奏家にとっては迷惑なことであり、敬
 遠したくなるものなのでしょうね。


ケースバイケースですが、僕は、効果的なところはパートを書きかえます。ただ僕にとっては大きな事ではありません。細かい事よりもっと他に大切な事があると思っていますので。(こんな事言うと怒る人いるでしょうけど・・・。)もう一つのぴょーとるさんの質問。
 さて、近年、機械による自動演奏やMIDIによる演奏が当り前になっ
 てきましたが、実はこれらの演奏に私は感心しません。やはりどうして
 も不自然であり、深みに欠けます。しかし、将来、まるで人間が演奏し
 ているような温もりを備え、しかも従来の演奏上の制約が無くなったら
 作曲家はどうするでしょうか? おそらくほとんどの作曲家はそれらの
 自動演奏システムに走ると思います。演奏上の制約の問題は作曲家と演
 奏家の「闘い」なのではないでしょうか? もし、将来、音楽は機械が
 演奏するのが当り前で、人が直接演奏する事の方が少なくなってしまっ
 たらどういうことになるのでしょうか? 私は少々心配です。音楽が人
 間不在の状況になってしまう。心細い気がしますがいかがでしょうか?


演奏上の制約が無くなることは無いでしょう。何故なら音楽は人間が演奏するものだからです。21世紀になっても、音楽は機械による(コンピュータなどの)ものが、ほとんどなんてことはありません。人間は音楽を聴きたいと思う時、そこに魂(ソウル)を求めているのです。以上の答えで、満足頂けるでしょうか?

次は、長谷部さん。
 藤岡さんは吉松さんの曲を通して初めて存じ上げた私としては、
 そのうち吉松さんのことも熱く語られるときがくるはずと思い
 待っておりました。


長谷部さんは吉松ファンだそうですね。近い将来ゆっくり吉松隆について語ろうと思っていますので、待っていて下さい。


兵庫の奥村さん、興味深いメールありがとうございます。
 昨日、大阪センチュリー交響楽団のコンサートを、大阪市内の
 ザ・シンフォニーホールで聴きました。
 (中略)
 また弦楽の2曲の前後にあった藤岡さんの語りは、プライベート
 な部分での「逸話」はウィットも効いており、指揮者・オーケストラ
 と聴衆の距離を一気に縮めた感じがしました。
 タダでさえ演奏家との距離が近いザ・シンフォニーホールを愛する
 私としては、このような指揮者の語りは非常に好きなのです。
 このように「語り」を入れるのは、指揮者・演奏家にとって集中力を
 欠く基になるなど欠点もあるのでしょうか?いかがでしょうか?


まず、コンサート中に「トーク」を入れることですが、僕はこういうクラシックのコンサートが、もっとあっていいと思っています。特にボクは今の日本のクラシック音楽界にはもっとしっかりとした底辺が必要だと思っているので、トークのあるコンサートで、クラシックを気軽に楽しめるようになってもらえれば、最高です。

さて次も同じく奥村さんの質問。
 オーケストラの運営などについては云々するのは差し支えある
 のかも知れませんが、一般的に見て、このような日本(特に関西)
 の状況と、本拠地であるイギリス(特にマンチェスターなどロン
 ドン以外の都市)の状況とを比べ、指揮者から見たオーケストラ
 の違いとか聴衆の違いなのではいかが感じておられますでしょうか?
 (マンチェスターと首都圏の違いでも結構です)


英国も大変厳しい状況にあります。しかし決定的に違うのは、先にも述べた“底辺”です。しっかりとした底辺がなければ、国も企業もオーケストラにお金を出してくれません。この辺のことについては、いずれ改めてお話しするつもりです。11月6日にシンフォニーホールで関西フィルの定期を振ります。その時に御会いしましょう!!
横浜市の田村さん、夏休みコンサートいかがでしたか?僕もこのコンサート毎年楽しみにしています。田村さんの質問はお子さんに習わせたい楽器です。
 幼少よりピアノとチェロをされていたとのこと。我が家の長男は
 反抗期で、ピアノは「いやじゃないけど」と」言いながら逃げ回
 っていますが、藤岡さんは小さいころよりピアノもチェロもお好
 きだったんでしょうね。私はチェロという楽器にたいへんあこが
 れていて、いつか息子に習わせたいと思うのですが、どのような
 経緯で指揮者への道を歩まれたのか教えて頂けたら幸いです。


僕の子供の頃についてですが、僕もピアノのレッスンが大嫌いでした。ピアノより野球が好きでした。僕の両親は、無理やり、音楽を僕にやらせようとしなかったので、音楽をキライにならなかったのだと思います。又、指揮者になった経緯についてですが、一口にお応えするのはムズカシイです。
ただ言えることは、
(1)心の底から、指揮者になりたいと思いつづけ、一時挫折をしたものの、自分が指揮者になれると
   信じることが出来たこと。
(2)故、渡邊暁雄先生が、僕の才能を認めて下さったこと。
(3)日本フィルが、僕を指揮研究員として受け入れて下さり、多くを学ぶことができた上に、英国留学
   のチャンスをつかむことができたこと。
以上3つの要因が大きかったと思います。
又、日フィルのコンサートでお会いしましょう!!ピアノ頑張って下さいね!!

さて次は、寺尾彩子さんの「宗教曲」について。
 藤岡さんは「宗教曲」というものに対して、どう思われています
 か?(宗教曲を振る時の心構えや、今まで、振った中で「これは
 最も印象に残っている宗教曲だ」といった事でもいいです)。

ウーム、これは僕ももっと勉強しなければならない課題です。実は僕の母と妹2人がクリスチャンで、ボクもカトリック系の幼稚園に通っていました。ヨーロッパに住んでいると、本当に宗教というものが人々の生活に大きく影響しているのを実感します。又、クラシック音楽の多くも宗教の影響を受けています。本当に宗教曲を理解するにはまだまだ時間がかかりそうです。個人的には「宗教曲」は大好きで、御質問の今まで、振ったことのあるものでは(実はあんまり多くないんです)、モーツァルトの「レクイエム」、ヴェルディの「レクイエム」、あとは「宗教曲」なのに、かなり世俗的な面の強いロッシーニの「スタバトマーテル」も大好きです。今年の夏は「マタイ受難曲」(バッハ)を勉強しようと思っています。あまり良い答えが出来なくてゴメンナサイ。又メール待っています!!

さて次は、小学生5年の三井ゆりかちゃんの質問。
 藤岡さんはチェロも習っていたと昨日お話されていましたが、
 どうしてチェロを選んだのですか?それからトランペットも・・。
 習いたい楽器がいっぱいで決めることができないので困っている
 ので教えて下さい。

まず、「子供の頃、ピアノの他にどうしてチェロを選んだのですか?」答えは、僕が10才の頃に衝撃を受けた、トスカニーニという指揮者が、チェリストだったからです。また、僕の祖父、親父もアマチュアですが、チェロを弾いていたからです。又、トランペットは、中学生のときの学校のオケに入る時に、カッコイイなと思って。又、ニニロッソというトランペット吹きの「夜空のトランペット」という曲を、どうしても吹いてみたくて始めました。ゆりかちゃんもオーケストラで、何か楽器ができると楽しいですよ!!


次は大阪のけいこさんの質問。「もう風邪は直りましたか?」答えは「直りました!!11月の関西フィルのコンサートに来て下さい!!」

次は、日本フィル夏休みコンサートの千葉のコンサートに来て下さった「かおりママ」の質問。
 2部のバレエの場面では何度もダンサーを振り返って見ていられたのが印象的です。かわいい女の子ばかりだったからかな?
 藤岡さまが王子様を踊ってくださったら、ぴったりだったのにと一人思っていました。
 (中略)
子ども向けのコンサートにはどんな背中をみせてタクトを振ってくださるのかなと思いましたが、なんか、子どもっぽく楽しそうに見えたのは気のせいでしょうか?

「指揮をしながら何度もダンサーを振り返って見ていたのは、カワイイ女の子ばかりだったからですか?」答えは、踊りに合わせて指揮をしなければならないからです。(・・・と言っておきましょう!?)もう一つの質問「タクトを振っている姿が、なんか子供っぽく楽しそうに見えたのは気のせいでしょうか?」答えは「気のせいではないと思います。」
僕はこの夏休みコンサートでは、子供のような純粋な心に戻って指揮をしたいと思っています。子供っぽく楽しそうに見えたとしたらとてもうれしいです。
又、コンサートに来て下さいね。

次は、Oさんの質問。
  指揮者というのは、楽器の演奏者と違い、自分一人で黙々と練習
  するということができませんよね。
  コンサート前の自主トレとしては、どんなことをされるのでしょう?
  演奏会前にオーケストラを前にして振ることができる回数って、
  平均どれくらいなんですか?

自主トレはしませんが、ひたすらスコア(楽譜)を読み込みます。又演奏会前のオーケストラのリハーサルは、プログラムにもよりますが、1〜3日です。
ところで、大竹さんへの質問です。親子コンサートに一人で来て下さったということですが、(とっても嬉しいですヨ!!)「コントラバス氏が、ねずみのかぶりものを無表情につけたのには爆笑しました。」とメールには書いてあったのですけど、やっぱり一人で爆笑されたんですよね?変なこと質問してゴメンナサイ。

さて、今回は質問を下さった方にお答えする形で、お返事を書きました。この他にも、沢山の応援のメールを頂き本当にありがとうございます。
せっかくメールを頂いたのに、今回のお返事にお名前の無かった方ごめんなさい。これに懲りずまたメールくださいね。その時は必ずお返事書きますから!
いただいたメールは全部拝見していますから、みなさん、今後ともぜひメール下さいね。できるかぎり返事を書きます!また、近況の手紙も書きますから!

それから、コンサートに来て頂いた方、トークショー&サイン会に来て頂いた方、CDを買っていただいた方、みなさん、ありがとうございます。
これからも、ぜひ応援をよろしくお願いします。

                   1999年7月30日  藤岡 幸夫



※右上の写真は光文社BRIO8月号からの転載です。
 (C)光文社 撮影:鍋島徳恭        

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