関西フィルハーモニー管弦楽団第173回定期演奏会 みどりの日コンサート」

2005年4月29日 ザ・シンフォニーホール(大阪市)
指揮/藤岡幸夫(楽団正指揮者)
独奏/須川展也(サクソフォン)
 コンサートマスター/ギオルギ・バブアゼ
  プレトーク司会/西濱秀樹(楽団理事・事務局長)

ララ/グラナダ
ポンセ/エストレリータ
ピアソラ/アディオス・ノニーノ
吉松隆/ソプラノ・サクソフォン協奏曲 「アルビレオ・モード」(世界初演)
プロコフィエフ/交響曲第5番

 関西フィルの今回のテーマは「リアリズムと秘められたロマン」です。開演前に「みどりの日コンサート」のお約束でプレトークがありました。ただし全般に場内からあまり笑いが出なかったです(笑)。西濱局長の司会で藤岡さんと吉松さんが登場されました。須川さんは演奏に集中するということでした。あとでサインを頂いたときに見たのですが須川さんの左手の親指に絆創膏が…、豆が潰れるほど練習されたようです。西濱さんから「藤岡さんは吉松さんに人生の半分を賭けているそうですが…」と振りがはいると、藤岡さんからは「いや、半分も賭けていない(笑)。賭けようと思っている」と返しが入りました。ちなみに当サイトの過去の記録(私が書いた)を見ると4年前の交響曲第4番初演時の発言は“「吉松さんに人生の半分を賭けてもいい、そんな(作曲家に入れ込む)指揮者はいない……この人(吉松さん)に全部はコワイけど(場内爆笑)」”となっています。その後は藤岡さんの恩師である故渡邉暁雄氏の何故現代音楽を演奏しなければいけないかについての話になりました。次に「アルビレオ・モード」の説明に入り、吉松さんから賢治との関わりについてなどが説明されました。今回の初演については藤岡さんから、やってみないとわからないところがある、という話が出ました。他にもいろいろな話が出ましたが、須川さんはこの曲を「サイバーバード協奏曲」の激しさに対して「寂しい美しさ」と形容したそうです。遠く彼方にある星への距離感が鍵ということのようです。続いて指揮者と作曲家の関係について話題は移り、吉松さんから、本来自作自演であったのだが、現代は自分の曲を指揮することが(技術的に?)難しくなっている、と話が入り、藤岡さんと出会ってから「新しい右手を得た感じ」という発言が出ました。藤岡さんから「右手ですかぁ」と返すと、吉松さんから「時々しびれたり、いうことをきかなくなる」とさらに返し。藤岡さんは「勝手にやっていますよ」と応じていました。この中で藤岡さんが「アルビレオ」が星の名前であると知ったのは今朝になってからだという事実が暴露(笑)されました。次に吉松さんの須川さん評に話が移って曰く「須川さんと会うまで、サクソフォンの曲を書くことを思いもしなかった。」。さらに「作曲家冥利」といった発言も出ました。その上で「アルビレオ・モード」も「二人(藤岡さんと須川さん)に出会わなければ出来なかった」とも。ここから後半のプロコフィエフの交響曲第5番について「40秒で」と西濱局長から藤岡さんに振りが入り、美しさと第2次大戦中の作曲ということで破壊の激しさが混在している、第4楽章は暖かいんですよ、とコメントが入りました。さらに藤岡さんからは、邦人作品とプロコフィエフの交響曲という興行的にも挑戦的なプログラム(西濱局長は最後まで反対したそうです)で補助席まで出てほとんど完売になったのは、協賛のNTTドコモ関西さんの応援と関西の地盤ゆえで、クラシック界にとっても重要なことだと謝辞が出て、対して場内から拍手が出ました。最後に、藤岡さんから関西フィルの素晴らしさがあるからこんな演奏会が出来ると〆の言葉が出ました。


・ ララ/グラナダ ポンセ/エストレリータ ピアソラ/アディオス・ノニーノ
 「グラナダ」は須川さんの十八番らしく激しい感じの曲、「エストレリータ」は往年のセミ・クラシックなどの定番でしっとりした曲。「アディオス・ノニーノ」はコマーシャルで使われたことでも有名で、作曲者ピアソラはタンゴとクラシックの融合を図った人で数年前からたいへんに有名になっています。須川さんのアルト・サクソフォンを使っての演奏に既に場内は熱くなっていました。「アディオス・ノニーノ」が終わったあと須川さんと藤岡さんが揃ってオーケストラに起立の合図を出していました。


・ 吉松隆/ソプラノ・サクソフォン協奏曲 「アルビレオ・モード」
        第1楽章「トパーズ」 第2楽章「サファイア」

 「『もうここらは白鳥區のおしまひです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの觀測所です。』 (中略) その一つの平屋根の上に、目もさめるやうな、青寶玉と黄玉の大きな二つのすきとほった球が環になってしづかにくるくるとまわってゐました。 (中略) 銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんたうにその黒い測候所が、睡ってゐるように、しずかによこたはったのです。『あれは、水の速さをはかる器械です。』」(宮澤賢治「銀河鐵道の夜」より)

 アルビレオ白鳥座のくちばしにあたり、望遠鏡で見ると赤と青の二重星が見えることから、「天上の宝石」といわれています。須川さん(天文好きだそうです)の委嘱により作曲されたこの曲はソプラノ・サクソフォンを使うという珍しい曲です。プログラム・ノートによるとジャズのコルトレーンとガルバレクという二人も意識して書かれているようです。打楽器はティンパニや大太鼓がなく、鉄琴、タンバリン、ウィンド・ベルなどを使用。他にハープやピアノを使っていました。管楽器の出番は少なく静かな曲で、須川さんがほぼ休みなく吹き続ける寂寥感あふれる曲でした。第1楽章は音もなく流れる天の川の上を白鳥が飛ぶ様な(「銀河鉄道の夜」としては鷺の方が適切か)感じでした。第2楽章はもう少し音は大きいですがやはり「寂しい美しさ」のある曲。途中でカデンツァがあり、ここは銀河鉄道の汽笛みたいに聴こえたのですが、あとで吉松さんにきくと解釈自由、ここは「アドリブ」なのだそうです。好感をもって場内から盛大な拍手が出ました。またも初演は成功です。

・ プロコフィエフ/交響曲第5番
パートを際だたせるというよりも全体が溶け合うことを優先させたアプローチで、最初は混沌としたところもあったのですが、立体感にあふれる演奏になりました。プレトークにあった通り、暖かい演奏でした。地響き立てて疾走型の演奏も多い中、推進力は控えた演奏、大きな音もここぞ、というときにだけ使う感じで、私もこの曲でこういう演奏もあるんだと目から鱗が落ちた感じでした。ショスタコーヴィッチよりも似合う(失礼)好演だと思いました。
終演後、楽屋口から藤岡さんは上機嫌に出てきました。須川さんも心待ちにしていた曲が演奏出来たということで上機嫌でした。

注:トーク等の引用は往々にして不正確である場合や、できるだけ復元に努めていますが趣旨を再構成しただけの結果になってしまった場合があります。ご了承下さいませ。


             2005年4月30日 Fu(ふ)



いつも本当に詳しいレポートありがとうございます。
そっか〜、このコンサートってまだ今年だったんで
すね。何か遠い昔のような気がします。
とにかく吉松さんの協奏曲は何とも言えない宇宙観
を音で表現されていて、抜群のセンスに改めて感銘
を受けました。プロコの5番はまたやりたいなぁ。
またコンサートでお待ちしています。




藤岡幸夫

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